スタディングを運営しているKIYOラーニングが東証マザーズに上場した時の会見で、「動画の講座をわかりやすく作っている」と社長が語ったように、スタディングはわかりやすい講座を目指しているはずなのですが、スタディングの行政書士講座の講義は理解し難いとの評判が優勢です。
動画を全て自ら視聴しているはずがない社長の主張より、口コミを信じてしまいそうですが、どちらが正しいのかは検証してみないと分かりません。どうして講義が難解と感じられてしまうのでしょうか?

2020年にも話題になったabc予想の証明のように、難解な理論を解説する講座なら理解し難いのも当然です。行政書士試験で扱われる内容が難解ならば、行政書士講座の講義動画が理解し難くても仕方ありません。
行政書士試験で扱われる内容がどのくらいの難易度なのかを検証すれば、スタディングの講座がわかりにくい理由に近付けそうです。検証を始めましょう。

1回聞いただけで理解できないのが普通は本当か

日常生活でも1回聞いただけで理解できないものは少なくありません。
専門家でも理解し難いこと以外にも、芸能人やアニメなどの趣味の領域で細かいことを聞いた時や、道を尋ねられるのだろうと思ったら別のことを聞かれた場合のような意表を突かれたような時や、騒音があるなどでそもそも聞き取れなかった時などです。

ここで検証するのは行政書士講座の講義動画なので、趣味の領域ではありませんし、意表を突かれることもありませんし、騒音で聞き取れないこともないはずです。
行政書士試験の内容は専門家が理解し難いものではないのですが、専門家には容易い内容でも一般人には難しい内容である場合に、1回聞いただけで理解できない可能性が残ります。

学ぶ内容が分かっているのですから、意表を突かれることはありませんが、逆に警戒し過ぎて頭に入ってこないケースは考えられます。
スポーツでは、考えすぎて結果が出なくなるケースがあります。野球で投手がどう投げてくるかを考えるあまりバットを振らずに終わってしまうとか、サッカーでカウンターで点を取られることを考えるあまり攻撃できなくなるといったケースは少なくありません。
行政書士試験も頭で考えて、手を動かして解答する点はスポーツに似ていて、選択肢1か2で悩んでしまい、手が止まってしまって時間だけが過ぎていくこともあります。

例えば、民法で心裡留保という用語がありますが、民法第93条を示して「意思表示は、表意者がその真意ではないことを知ってした時であっても、そのためにその効力を妨げられない」と説明されても理解できないと感じてしまうでしょう。

条文は書き言葉なので1回で理解できなくても問題ありませんが、講義中に出てきて、講師が読むと、話し言葉のような気がしてきて、すぐに理解できなければならないと感じてしまいます。「意思表示は、表意者が」のあたりで思考が止まってしまい、その後は分からないまま時間が進んでいくことになります。
法律ということで考えすぎ、さらに条文という書き言葉が含まれるために思考停止に陥って1回で理解できないという状況になるものと考えられます。

しかし、法律と言っても身近なものから、専門家が細かく検証する難解なものまで幅広くあります。行政書士試験で扱われる内容が身近なものでなければ、1回で理解できないのも仕方ないことになりますが、行政書士は町の法律家なので、身近な内容しか扱わないはずです。「1回聞いて分からないのが普通」は嘘ということになります。
身近な内容なら、日常生活でよくあるケースを例示すれば、1回で理解できるはずです。
何事にも例外はありますので、難易度の高い内容が扱われるかどうか検証しましょう。

行政書士のテキストは平易

一般的な行政書士試験のテキストは、憲法から始まって、行政法、民法、商法と続き、一般知識で締める構成になっています。
憲法の参考書なら、はじめの方に憲法の意義について記述されているので、実質的意味の憲法・形式的意味の憲法や実定法的意味の憲法・法論理的意味の憲法といったわかりにくい内容が続くので、講義を受けて1回で理解できないのも当然のような気がします。しかし、行政書士試験のテキストでは、この辺りの記述がバッサリ削除されています。

憲法の意義については、平成22年度から令和元年までの10年間、平成29年度に出題されているだけで、出題頻度が低いため学ばなくても良いものとされます。
「1回でも出るなら勉強すべき」と思うかもしれませんが、平成29年度の出題は一般常識程度で正解にたどり着くことができる問題なので、テキストに記載する必要はないとの判断は間違いではありません。

平成29年度の憲法の意義に関する問題を見てみましょう。

選択肢1は問題文の前半と後半で矛盾が生じていて、普通に読めば間違いだと分かります。
選択肢2は「実質的意味の憲法」について学んでいればすぐに正しいと分かりますが、知らなくても何となく正しそうと思って、次に進めば済みます。
選択肢3は憲法の条文を一度でも読んでいれば間違いだと分かりますし、内容も常識的にあり得ないものです。
選択肢4は憲法と条約のどちらが優位かという問題ですが、あれこれ考えずに選択肢そのものを保留しても問題ありません。
選択肢5は「法規範性」という用語が分かっているかどうかになりますが、忘れていれば保留しても良いでしょう。

以上から、選択肢1と3を消去して、3つ残りました。選択肢4は日米安保条約で日本が軍隊を持つことを決めてしまえば、憲法第9条が無意味になることを考えると間違いだと分かります。
選択肢5は、生存権を規定した憲法第25条が裁判規範性を持たないことを思い出せば、前文にないのは裁判規範性なのだろうと考えることができます。

しかし、実質的意味の憲法について行政書士試験のテキストに記載があれば、選択肢2を読んだだけで正解することができるはずです。
頻出問題ではないからテキストの記述を削除しているだけでなく、解説すると難解になりそうだから削除しているとも考えられます。

法学部卒で、憲法の授業の最初に実質的意味の憲法・形式的意味の憲法を学んだ人には、行政書士試験のテキストは記述が浅いと感じてしまうでしょう。それで十分合格できるのですから、行政書士試験では難解な理論を学ぶ必要はないので、何度も聞きなおすスタディングの行政書士講座の講義は必要ないのです。
難しい所を削除してあるテキストを元に作られる講義が理解し難いのはありえないと思うでしょうが、わざわざ理解し難くする指導法もあるのです。

スタディングでは行政書士試験の勉強時間が長くなる

簡単なものを難しく教えるという風潮があります。例えば、スポーツで力学から指導するとか、技術の指導なのに個性の尊重とか勇気を与えるといった心理学的な要素を加えるといったものが挙げられます。

道を聞かれた時に、「まっすぐ行って左」とだけ説明すると、どこまでまっすぐ行けば良いのか分からないでしょうし、左折するにしても左側に道が2本以上あると困ってしまいます。
そこで、曲がる所にある目印を伝えたくなりますが、特に目だったものがない場合や、はっきりと覚えていない時は、一緒に行くことになります。
一緒に行って道案内することが横の繋がりだとすれば、師弟関係のような縦の繋がりもあります。縦の繋がりは、師匠が難解な説明をして、弟子が難解なことを理解している師匠を尊敬するという状態です。つまり、講師が難解なことを言っていれば言っているほど弟子は尊敬して指示に従うようになるのです。

尊敬している人の言葉は「刺さ」るのが普通です。やる気も出てきますし、過酷な学習すら喜んでするようになるかもしれません。1900年に起こった義和団事件では、拳法を学べば武器にも勝るというマンガのような話を信じた人々によって北京を占領するまでに至りました。師弟関係を上手く使えば、大きな力になることが分かります。

しかし、義和団が列強に鎮圧されたように、近代兵器には勝ち目がありません。将来的には、1回で理解できる講義動画に、1回で理解できない講義動画は駆逐されるはずです。しかし、現在の行政書士試験は清朝末期のような状況で、まだまだ徒手による人海戦術でも対抗できるレベルです。1回で理解できない講義動画を何回も視聴しなおして合格することは可能です。

ここで一度立ち止まってください。あなたは何のために行政書士の資格が欲しいのでしょうか。行政書士が格好良いから、名誉だからという方はスタディングの行政書士講座でも問題ありません。格好とか名誉といった金銭に変えることができないものは、個人の価値観によるものが大きく、第三者が口を出すべきことではありません。

しかし、行政書士の資格が仕事に必要だから、独立したいからといった職業にかかわることが理由なら、金銭の面からも考察する必要があります。
行政書士試験に合格するには1000時間かかるといわれているので、時給1000円とすると100万円費やすことになります。実際にあなたの懐から100万円出すわけではないので、100万円費やすことにはならないと考えてしまうでしょう。一昔前までは、ちょっとアルバイトをするだけでも面接がありましたし、正社員になるには今でも時間がかかります。

1000時間あっても100万円にするには手間がかかっていたので、時間=お金と考えにくいのは仕方ありません。最近は宅配便などの仕事で、手軽に余った時間をお金に変える方法が増えていて、今後1000時間を行政書士試験の勉強に費やすのか、100万円稼ぐのに使うのかはあなた次第なのです。
100万円あれば投資したり副業に必要なものを購入することもできるので、本当に行政書士の資格が必要かどうか悩むはずです。もう少し勉強時間が短いならと考える人も多いでしょう。

スタディングの行政書士講座は、1回で理解できないなら何度も繰り返すという勉強方法を推奨しているので、短時間で行政書士試験を攻略する方針ではありません。師弟関係を強化して士気を上げ、他の受験生の何倍もの勉強時間をかけて合格する方針です。忙しい人や、行政書士資格を仕事に使おうと思っている人には合わない勉強方法になっているのです。価格優位を主張していますが、勉強時間が増えれば、価格優位などすぐに覆されるのです。
勉強時間が長くなってしまうスタディングの行政書士講座は、行政書士の資格で稼ごうという人には不向きな講座になっています。